コミュニケーション学科と「コミュニケーション力」ーあとがきに代えて
皇學館大学コミュニケーション学科編『コミュニケーション力とは何だろう』(2008)の立ち読みコーナーです。どんな本か知ってもらうために「あとがきに代えて」の部分を、立ち読み用に提供しています。執筆者7名の著者紹介もこちらにあります。
皇學館大学コミュニケーション学科研究室の入口付近には、拡大コピーをとった新聞の切り抜き記事が貼ってある。内容は日本経団連によるアンケート調査結果で、企業経営者が若者に求める第一の能力が、圧倒的に「コミュニケーション能力」であったことをグラフでわかりやすく示したものである。
皇學館大学にコミュニケーション学科が創設された平成十二年(二〇〇〇)頃は、世の中はまだこれほどまで「コミュニケーション能力」「コミュニケーション力」ばやりではなかったと思う。それが八年のあいだに、年を追うごとに一段とこの言葉がいわれるようになり、企業社会、地域コミュニティー、国際社会、教育の現場などで、もはや「コミュニケーション力」が重要というのは常識にさえなった感がある。
その意味では、「現代の日本社会で必要とされるコミュニケーション能力と、英語力」を身につけることを目標にかかげるコミュニケーション学科は、先見の明があったともいえよう。あとでふれるが、たしかに卒業生たちの就職状況は好調である。
ただ、世の中でしきりと用いられるこの言葉は、どこか「呪文」のようになってしまったところがあり、その内実はいったい何なのか、そもそもなぜコミュニケーションが必要なのか、あるいはなぜそこまでしなくてはいけなくなったのか、といったあたりが、あまり問われることがない。
これではどこか、コミュニケーションをしなくてはいけないという強制のようであり、ちょっと息苦しい感じもするのである。
そこでコミュニケーション学科では、平成十九年度(二〇〇七)文学部月例文化講座を機会に、「コミュニケーション力とは何だろう」について皆で考えてみることにした。自らが拠って立つ足もとを見つめながら、本当は何なのか、本当にそうなのかと問うことは、学科の目標にこの言葉をかかげるわれわれの責務だろう。
内容が一本調子にならないように工夫をし、共通の年間テーマのもとに、次の七回の個別テーマでおこなった。
平成十九年度文学部月例文化講座 年間テーマ「コミュニケーション力とは何だろう」
第一回 五月十九日 森真一「コミュニケーション能力を求める社会」
第二回 六月九日 前田至剛「つながりと癒しのネットコミュニケーション」
第三回 七月十四日 増井節郎「スポーツの中でのコミュニケーション」
第四回 九月八日 川添裕「コミュニケーション事典を作った経験から」
第五回 十月二〇日 上久保達夫「異文化を生きる子どもたち」
第六回 十一月十日 川村一代「TOEICと日本人の英語力」
第七回 十二月八日 豊住誠「カタカナ語とのつきあい方」
大まかに、第四回目までが現代の人間関係や日本社会にかかわる切り口、第五回以降が英語力や国際社会にかかわる切り口であり、これはコミュニケーション学科の教育研究の二本柱でもある。
そして全講座の終了後、当初から予定していた通り、今回は明確に共通テーマに取り組む内容なので、七回分をまとめて一冊の本を作ることとした。これは従来の、一回分を薄いブックレットにしていく皇學館大学講演叢書のやり方とは異なっている。
また、元は講演としてやっているわけだが、その講演を文章におこすいわゆる講演録ではなく、各自が講演を踏まえて、考えをさらに練ったたうえで原稿を書き下ろすこととした。これは内容をより充実させることを意図したものである。むろん文章は、平明でわかりやすいものを心がけている。
この二つのちがいから多少の議論もあったが、枠組みとしては長年続くシリーズということもあり、全体を「皇學館大学講演叢書第一二〇輯」とした。気軽な講演の良さを残しながら、読み応えのあるものにしたとでもいったらよかろうか。
今回、七人の教員はそれぞれの切り口から、共通テーマに正面から取り組んでいる。何か少しでも読者の役に立ち、刺激となるものがあれば幸いである。ただし、「コミュニケーション力」の問題は、結局、コミュニケーションとは何かにつながる問題であり、そこには人間の社会、文化、感情、身体、記憶、歴史、技術等々のすべてが絡み合ってくる。だからそれは、「これが答え」と言い切れるものではなく、考え続けていく課題なのである。われわれ自身、この面白い問題を学生とともにさらに考えていきたい。
さて、せっかくの機会なので、ここで平成二〇年(二〇〇八)時点のコミュニケーション学科の概要を紹介しておこう。以下、箇条書き風になることをお許しいただきたい。
[コミュニケーション学科の目標]
現代の日本社会で必要とされるコミュニケーション能力と、英語力を実践的に身につけ、あわせてその背景となる知識や理論また伝統文化の教育・研究によって、現代社会の多彩なコミュニケーションの場を担いうる、すぐれた人材を育成する。
[履修モデル等]
現代社会が求めるコミュニケーション能力とは、「日本語能力」「英語を中心とした外国語能力」「人間関係力、社会情報力、コミュニケーションスキル」であり、受け手としての理解力や共感能力を基盤としながら、送り手としての表現力や議論する力、問題解決能力に学習の重点を置く。関連の必修科目を共通して学んだうえで、さらに知識や理論を学び力を延ばしていくために学生が選択する、次の二つの履修モデルがある。
人間関係モデル 英語コミュニケーションモデル(英語教員免許取得)
[教員スタッフ]
現在十名の教員がいる。本書の七名については巻末の紹介を参照。このほか英語が専門で「英会話」ほかを担当のジョン・ダイクス准教授、地理学・環境考古学が専門で「自然地理学」「環境地理学」ほかを担当の外山秀一教授、ドイツ語学・ドイツ文学が専門で「ドイツ語」「異文化間コミュニケーション」ほかを担当の山田やす子教授がいる。
[行事等]
コミュニケーション学会総会、優秀卒論発表会、講演会や、高校生英語スピーチコンテスト(十月)などが毎年おこなわれている。また別途有料になるが、本学にはイギリス短期語学留学(夏期・希望者・ノーサンプトン大学と提携)の制度もある。
[就職状況]
これまで五回出ている卒業生の就職は好調である。英語教員免許が取得可能となったコミュニケーション学科二期生以来、本年まで連続して英語教員が誕生している。本年は三重県教員採用試験合格者も出た。全体では多くの学生が多彩な一般企業、サービス業に就職しており、これも大きな特徴である。警察・消防を含む公務員も毎年出ている。(→最新の就職状況)
なお、前掲はすべて平成二〇年時点の情報であり、最新のものはウェブやパンフレットなどでご確認いただきたい。最後に、これまで教員のイラストなどを製作してくれた卒業生に心から感謝する。こういう学生がいるのも、コミュニケーション学科の楽しいところである。
平成二〇年三月 コミュニケーション学科教授・川添裕